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James Turrell, Breathing Light, 2013, LED light into space, Dimensions variable, Los Angeles County Museum of Art © James Turrell Photo © Florian Holzherr
砂漠や灌木地で出来た、まるで異世界のような景色が見ることのできるアリゾナの大地は、広大で厳しい環境でありつつも魅力的な場所だ。
1970年代初頭にその地に魅せられたジェームス・タレルは、飛行機でペインテッド砂漠上を探索しクレーターを偶然見つけたのだ。
1979年に死火山とその周辺の土地277平方マイルを購入してからというもの、タレルは空と大地が一体となれるような空間を生み出す事を目指し続けている。そして、それが現実となる日は近い。まず、死火山の頂上を再形成するところから(クレーター・ボウルを形作るために130万立方ヤードもの土を移動させた)廊下を削り出し、人々が太陽と星を最も純粋で直接的に体験出来るように複数の空間を設計し、建造するところまで、タレルは宇宙飛行士や技術者達に助言を求め、夏至や冬至の様な天文現象を際立たせるために正確な配置を定めた。
近年、カニエがタレルに1,000万ドルを寄付したのは良く知られている話だが、同時にアリゾナ州立大学がこのプロジェクトを完成に近づけるべく、パートナーシップと資金援助を申し込んだのだ。
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James Turrell, Roden Crater Alpha (East) Tunnel Render | © Skystone Foundation © James Turrell
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タレルの狙いは人々に様々な天文現象を遠くから観察するだけではなく、体験してもらうことにある。「ローデン・クレーター」という作品は、タレル流に光の恩恵を実感する為だけにデザインされ建設された最も純度の高い鑑賞プラットフォームとなるのだ。「私の作品は鑑賞するものを上空へと誘う。地形は関係ない。私は太陽や月の様な天体を私達が生活している空間に持ち込むために制作をしている。
私は光を熟知している ー 私は光を形作ったり、含んだりする事象を生み出すのだ。」この台詞はタレルがもつビジョンの広大さを物語っている。
1943年ロサンゼルスで生まれたタレルは、幼少期から宇宙で起こる現象に興味を持った。日常的に航空技師の父と飛行機に乗っていたからであろう。彼の両親はキリスト友会の信者で、それが上空からの視点に加え、タレルの世の中に対するものの見方の形成に寄与した。
16歳にしてタレルはパイロットの免許を取得したのだが、この情熱が後々の彼の人生を切り開いたのは疑うまでも無い。
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James Turrell, Aten Reign, 2015, Archival pigment print | Image Pace Prints
大学でタレルは心理学と数学を学んだが、これにより彼は後の1960年代と70年代に南カリフォルニアで起こった光と宇宙運動のキーパーソンとなるのだった。
タレルは自身の活動を「知覚芸術」と称しているのだが、彼の作品は光のありとあらゆる形における具体性を掘り下げている。
タレルの作品の数々はインスタレーションから建築模型、ホログラム、そして紙に描かれた絵等の規模感の小さい物まで非常に多岐に渡る。世界中に80点存在する彼の「スカイ・スペース」シリーズは、空をまるで額装したような閉鎖空間だ。このような空間で見える景色と、その空間が生み出す色に単純に集中すると、私達が実際に知覚したもの自体が具現化される。タレルはプラトンの「洞窟の比喩」を引用し、私達はみな、自分自身の創造した現実の中で、人間の知覚の限界に(文脈的かつ文化的な規範も同様に)支配されつつ、生きているのだという概念の導入としている。「スカイ・スペース」もこの概念、及びこの理論が拡張されたものを具現化しているのだ。しかし実際、その価値を本当の意味で見極めるならば、私達が気を散らす事なく身の回りの美しさにあえて注目するための、神による芸術作品である可能性もある。この文脈を通じ、額装する事によりここでも見られる様に空はより多くの事を私達に語りかける。タレルのもう一つの代表作が「ガンツフェルト」だ。鑑賞者が部屋に入ると辺りがネオンの霧で包まれ、周りを取り巻く空間に息を呑むこととなる。「ガンツフェルト」はドイツ語でホワイト・アウト下における様に、奥行きの知覚を完全に失う現象を表すのだが、タレルはその語彙の意味の向こう側にまで言及する。
「ガンツフェルト」は色付けられた光の中を行く旅の中で、人々の時間と場所の感覚を奪う。それにより、鑑賞者は自分自身、自身の考え、そしてその肉体と真の意味で向き合えるのだ。
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James Turrell, Afrum (White) 1966, Cross corner projection, Los Angeles County Museum of Art © James Turrell Photo © Florian Holzherr
彼の「知覚の小部屋」シリーズも同様に見る者を啓発する。タレルは同作品を1980年代から作り続けて来た。そして、私がタスマニアのMONAで体験したものはその中でも最も大きな作品のうちの一つだった。大きな円形の小部屋で、中で2人が寝そべるのには充分な広さがあった。白い服を着たオペレーターがパッド入りの台の上に案内してくれて、こう言った「少し、LSDを服用した時の様な作用があるかもしれません。」その比喩は遠からずと言ったところだった、と言えるだろう。変わりゆく光は、明るい中、闇の中、早く、遅く、そして、より早いパターンで繰り返し光る
ー そしてある時点で、その強烈さあまり、目を閉じてもまだ、その光が見えていると錯覚する程だ。そして、その中に魔法が隠れている。私達の身の回りにあるものに対する、私達の知覚に変化を及ぼすのだ。
「知覚の小部屋」の中で鑑賞者達は自身の精神の一番深い部分まで到達し、ただただ流れに身を任せる事が出来るのだ。
一度タレルの感覚インスタレーションを体験してしまったら、もう後戻りは出来ない。その経験は 来場者全員の心と体に埋め込まれるのだ。
インスタレーション作品にだけに留まらず、タレルの「アテン・レイン」プリントシリーズは光を印刷インクで表現する事の限界に挑んでいる。タレル曰わく、「紙の上の色と光の中の色には非常に大きな違いがある。」
数年にも渡って作られて来たこのシリーズは浮世絵の手作業で掘られた木版を使用しており、14色、12個の木版そして1つの鉄板により表現されている。
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James Turrell - Bridget’s Bardo, 2009, Ganzfeld, Installation view at Kunstmuseum Wolfburg, Germany, 2009 © James Turrell Photo © Florian Holzherr
78歳になった今でも、彼の勢いは衰える事を知らない。タレル作品は世界中の最も似つかわしくなく、辺鄙で、驚くべき場所で目にする事が出来る。瀬戸内海の直島にある地中美術館、タスマニアにあるMONA、ベルリンにあるドロテーエンシュタット墓地のチャペル、イングランドにあるキールダー・フォーレスト・パーク、オスロにあるエーゲベルグ彫刻公園、デビン・ブッカーの家(!)そして、オーストリアのゲレンデにある小さな山奥の村だ。アルゼンチンのコロメに世界で最も標高の高い場所に位置するブドウ園があるが、そこにはタレルの作品に特化した9つの部屋からなる美術館がある。膨大な作品の数々は全てヘス・アート・コレクション所蔵のものだ。外には最大級のスカイ・スペース「アンシーン・ブルー」(2002年作)が中庭を占拠する。もちろん、ほぼ全ての著名な美術館がタレルの作品を所有している。それが、キャンベラにあるオーストラリア国立美術館にある独自のオリジナルスカイ・スペースの様なカスタムメイドのものでは無いにしても、だ。世界中に何点もの作品を発表してきた、この謎めいた芸術家は新しい観客に心身の調和を体験させ、私達に身の回りの世界に対する新しい視点を開き続けてくれる。
私達の大地と天空に対する感覚を高める、彼の類稀な作品は深く、実際に体感したものを感動させる。
タレルは私達に空は決して手の届かない場所では無いということを証明し続けてくれている。彼は宇宙を地球上にどんどん近づけてくれているのだ。
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James Turrell, From Aten Reign, 2016, a Ukiyo-e Japanese style woodcut with relief printing Image Pace Prints
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James Turrell, Breathing Light, 2013, LED light into space, Dimensions variable, Los Angeles County Museum of Art © James Turrell Photo © Florian Holzherr
Text: Monique Kawecki
Translated by Sho Mitsui