AMBUSH®、Nike Air Adjust Forceのバスケットボール歴史を90年代レイヴで一新
Nikeのアイコニックなスニーカーの数々を思い浮かべた時、どれもスポーツ向けに作られているとはいえ、その多くがサブカルチャー的デザイン性においてもスニーカーカルチャーの歴史に名を刻んできた。元々バスケットボール選手マイケル・ジョーダンのために作られたであろうAir Jordanも、蓋を開けるとスケーターや80年代後半にモッシュピットで暴れた若者たちにも人気を博した。本来はマラソンやランニング向けのAir Maxなどの革新的スタイルのスニーカーも同様に、後にオランダのテクノ界、イタリアのグラフィティアーティストたち、イギリスのグライムカルチャーに至るまで広く若者層へと浸透していった。
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このカウンターカルチャーを経てスポーツへという間接的な流れにインスピレーションを受けたYoon Ahnは、最新のNike x AMBUSH®コラボレーションにAir Adjust Forceを選んだ。Nikeのバスケブームに合わせて1995に初めてリリースされたこのモデルは、その多様な色展開により大学のスポーツチームなどで人気を爆上げした。ビンス・カーターやジェイソン・テリーが在学中に履いていたことでも有名である。
今回のAMBUSH®コラボレーションにおいて興味深いのは、Nikeのスニーカーがバスケというスポーツに深いルーツを持ちながらも、ストリートでもその頭角を見せ始めていた90年代のカルチャー的コンテクストにYoon Ahnが着目したことである。「スポーツは必ずしもジムやコートの中に留まるものではないはず。大事なのはそのメンタリティーや精神です」と Air Adjust Forceを選んだYoon Ahnは話す。「Nikeが90年代〜Y2Kのクラブシーンや音楽と強いつながりを持っていることよく知っています。当時は誰もが履き心地のいい靴でレイヴパーティーに通っていた時代でしたからね」
バスケのスニーカーをその聖地から引き抜きファッションアイテムへと転身させるとは、奇抜なアイディアだと思う人もいるだろう。しかしAhnにとってこれは、むしろ彼女を(これまでのNikeとのコラボにおいても)ずっと魅了し続けた歴史あるシューズに全く新たなコンテクストを与えるチャンスだったのだ。「もともとNikeとコラボできるのはスポーツをする人たちだけだと思っていたんです」とAhnはNikeチームとの出会いについて話す。「『自分はスポーツはしないけど、女性ユーザーとして思うのは、ジムやコートで履くものはストリートでも履けるくらいイケていて欲しい!』とお伝えしたんです。」
コラボのキックオフとして、Ahnはまずオレゴン州ビーバートンにあるNikeキャンパスへと足を運び、アーカイブルームにてリサーチを実施した。「私たちのプロジェクトはいつだってアーカイブルームから始まります。どんなバイブスを感じていて、どんなものを作ろうとしているのか、とことん掘り下げます。また、その際、常に透明性を意識した対話に心掛けています」とAhnは自社のクリエイティブプロセスについて話す。
こうしたNikeファミリーとの初期段階の打ち合わせの中で、Ahnは本コラボを90年代にタイムスリップするものにしたいと思いついた。90年代シアトル(ビーバートンの北)育ちの彼女は、子ども時代に初めてNikeブランドと出会った。グランジ世代のピークで、「グラノーラスタイル」の愛称で呼ばれるドクターマーチンやハイキングブーツを履いて育った彼女は、その頃Air Max 180とある思わぬ出会いを果たし、そこからレーベルへの愛を育み始めたと言う。
もともとAir Max 180は、2019年のAMBUSH®とNikeのコラボレーションパートナーシップを発表する際のデビューシルエットとして選ばれていた。しかし今年2022年は、それを全く新たな方向へと展開していくことにしたと言う。「アーカイブルームで歴代のバスケシューズを眺めていた時気づいたのは、そのほとんどがハイカットスタイルであるということ。ちょうどDunk(2021年)でハイカットは手がけたばかりだったので、今回はローカットに挑戦してみたくなりました」とビーバートンでの打ち合わせを振り返る。
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そんなAhnは、アーカイブカタログを読み漁る中で、古いAir Adjust Forceの写真を見つけた。そのイメージがなぜだか頭から離れず、彼女は同モデルに新たな展開を与えられないかと模索し始めた。ローカットから始めつま先部分を改良し、「よりゴツく重みを持たせる」べくシルエットの改装を重ね、同時に前面の縦切れや細やかな飾りに気を配った「スマートで近未来的」なルックスを目指した。
中足部の取替可能なストラップは、まさに当時そのシルエットをアイコニックな存在たらしめた演出であり、ゆえにAhnはそれを残すことに。90年代において、プレイヤーたちはそのカバー部分にチームカラーを当てたりその日の服装にマッチするよう選んだりして、スニーカーをパーソナライズしていた。「自由な遊びをもたらす要素」として今回Ahnはそこに着目した。「ストラップをつけても外しても履けるようにしたい。そうすることで、2つの全く異なるバイブスを一足のシューズで楽しめるじゃないですか」
さらに、90年代のクラブカルチャーを補完するべく、AhnとNike東京は本キャンペーンに当時を彷彿とさせる新感覚の視覚的面白さを加えた。と言われると、ついついビョーク的なサイバー風ルックスを想像しがちだが、ビジュアルはむしろレイヴ会場に所狭しと貼られた破れ廃れたポスターなどのクラブ界の抽象的なイメージとなっている。「当時のクラブカルチャーをなるべく直接的でない形で、楽しく懐かしく思い出させられるようにしたかったんです。どちらかと言うと、ノスタルジックなバイブスを思い起こさせる。90年代半ばやY2K初期へ送るラブレターのように」とキャンペーンのアートディレクションについてAhnは話す。
そのルックスを実現すべく、NikeジャパンアートディレクターDanny Demers氏はイギリス人デザイナー&タイポグラファーChris Ashworth氏にキャンペーンのスローバックデザインを依頼。彼を抜擢した理由についてDemers氏はこう話す。「当初Ahnが自身のインスピレーションやコレクションに対するコンセプトイメージを共有してくれた時から、私たちはグラフィック案としてレイヴフライヤーを検討していました。となれば、さらに掘り下げるべく当時のグラフィックス言語に着目し、それこそ第一線でそれらに携わっていて今でも同領域において活躍している方にお願いできないかと思い。そこで思い浮かんだのが、当時のパイオニア的存在だったChrisでした」
Ashworth氏はそのスイスグリット的美的スタイルで90年代初旬よりその名を知らしめた。そのむき出しなビジュアルスタイルは、音楽雑誌『Ray Gun』の元アーティスティックディレクターだった頃、自身の数々の作品にも採用していたことで有名である。「Nikeは昔から個人的に大好きなブランドです」と本コラボレーションについてAshworth氏は話す。「実は自分は普段からランニングとかもしていて、Just Do Itのエトスというか、あの精神が自分自身の活動や手作業の作品作りのメタファーのようでもあり、すごく共感するし大好きなんです。なので今回のプロジェクトはNikeのスローバックでもあり、そこにまた新たに新鮮味を施した感じでもあります」
Ashworth氏いわく、自身のデザイン性はスイススタイルのグラフィックデザインとの奮闘期に培ったとのこと。「とにかく構造化されていて、ものすごく硬くて正確なものが求められた時代でした」と話す。しかし、のちに彼の代表的スタイルとなる露骨なデザイン的アプローチは、彼がロンドンの街中を日々歩きながら得たインスピレーションを元に作り上げられたと言えよう。「仕事へ向かいながら歩いた街のにおいは忘れられません。ほこりだらけの道に散らばったポスターやフライヤーたち。そうしたビジュアル要素をすべてRay Gunで融合させてみたのです」と当時を振り返る。
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AMBUSH®キャンペーンのイメージ制作において、その狙いはレイヴポスターを再現することではなく、あくまで当時のエッセンスを受け継ぐことにあったとDemers氏は話す。「私たちが実現したかったアイディアは、当時のパッションやカルチャーをスポーツへと変換すること。レースを走り終えた時に感じるエクスタシーとパーティーで感じるスリルや興奮を比べて、重ねて…みたいなことですね」
Ashworth氏はそのコンセプトを受け、驚くほど欠陥だらけで美しく不完全なタイポグラフィーを作り上げ、その本領を発揮した。紙、インク、レターシート等を駆使し、Nikeのswooshロゴをセロテープで描いたり、インクまみれのAdjustシューズの靴底を擦りつけてテクスチャを与えたりなど、それは何層にもわたる創造と破壊を積み重ねた傑作となった。
「キャンペーンスローガンである『Nike x AMBUSH®、Air Adjust Force、Just Do It』のすべての要素を包括した納得のいくデザインを作り上げたいと思いました。すると幸い、ステキな三角構造があるじゃないか、と気づいたんです」とオリジナルのモックアップについてAshworth氏は話す。それを中枢におくと、今度は百枚近くプリントアウトしたそのイメージをいじり始めたと言う。「とにかくまずはインクをぶっかけていきました。実際にシューズの裏に大量のインクを塗って擦りつけてみた映像とかもありますよ。とにかく商品そのものを楽しんで、キャンペーンにエネルギーを注入することが目標でした」と自身のアナログなスタイルについて話す。
キャンペーンにおけるその他ビジュアル要素について聞かれると、AMBUSH®ビジュアルの一部は1996年に初めてローンチしたAir Adjust Forceと同時期に作られたNikeの1-800デザインポスターからヒントを得ている、とDemers氏は明かす。「シューズ撮影の際のインスピレーションはそこからきています」とのこと。また、本キャンペーンのモデルキャスティングにおいてAhnが採用した電話番号案も、アーカイブポスターからアイディアを得ている。東京でモデルを目指す若者らがその番号に電話申請すると、本グローバルキャンペーン第二弾へのスカウトのチャンスが与えられるというものである。
とはいえ、もちろん一筋縄でいくわけではなく、当然実力を発揮できなければならない。AMBUSH®は地元雑誌やエージェンシーSabukaruと協働し、クラブカルチャー精神および実際にストリートを行き交う人々(Streetsマガジンなどに掲載された都心のクラブのすぐ外のストリートスタイルショットなどを思い出す)に恥じぬような、東京の街のベストなストリートスタイルをセレクトする。「Nikeクラブにインスピレーションを受けた最も魅力的なスタイルを提案した人が本グローバルキャンペーン第二弾で活躍するチャンスを得ます。ワクワクしますよね!」とコンペについてAhnは話す。
コンペ優勝者は、東京にて複数回開催予定のNike x AMBUSH®クラブナイトの初日に写真撮影が計画されている。“NITE SPORT”のバナーを掲げた初日オープニングイベントには、地元および世界で活躍するDJやNike同窓会メンバーを招待。プログラム自体はニューヨーク、ベルリン、メキシコシティーで展開され、最終的にミラノにて9月のファッションウィークで幕を閉じる予定。
Text: Sam Trotman
Collage: Ken Balluet
Translated by Yurika Nawa