商品数 ()

買い物かご

買い物かごに商品が入っていません。

買い物を続ける
  1. HOME
  2. 青木正一インタビュー:ストリートファッションを見守る温かな眼差し

青木正一インタビュー:ストリートファッションを見守る温かな眼差し

共有する

“ 山に行って蝶々を採る時って大変じゃないですか。でも珍しい蝶々が採れた時の喜びというか。誰かがこのファッションを記録してないと消えちゃうんだよっていう責任感を感じてます。”

 

1985年からストリートをゆく人のファッションをスナップし、アーカイブを続けてきた青木正一。彼が1996年に創刊した『FRUiTS』は、原宿発の独創的なファッションを世界へ発信し、今なおその影響力を放ち続けている。

温かく見守る視点から街中を歩くおしゃれな人たちの一瞬を切り取る青木さんの写真は貴重なファッション史の記録として息づいている。ページの隅に小さく設けられていた質問コーナーでは、被写体のちょっとしたパーソナルな一面が垣間見え、「Tシャツ:彼氏の」、「バッグ:忘れた」といった時折見られるラフさも、ファッションの自由さと日常性を象徴している。単なる観察ではなく、街に息づく個性を尊重し、共鳴するような活動を続ける青木氏が確立してきた「見る」と「見られる」の関係性が、どのように形成されてきたのか、本人に話を聞いてみた。

青木さんは何をしてる人かと聞かれたらなんと答えてますか

 

青木: 昔は雑誌の出版をしてますって言ってたりとか。でも今は出版してないし。最近書いたアンケートにはストリートファッションコレクターって書きました。フォトグラファーと名乗るのも違う気がするので。

 

 

初めて人を撮ったのはいつですか

 

青木: STREETを1986年に始めた頃。パリで人に声をかけたのが最初です。最初は自分で撮るつもりはなく人に頼んでたんですけど、行ってみたら自分でやったほうがいいかなと。

プログラマーを辞めて半年くらいヨーロッパを歩き回って、1985年頃に『STREET』を通じて写真で記録を残すというテーマが始まりました。

 

 

趣味で写真を撮っていく中で『STREET』が生まれたのかと思ってました。

 

 

青木: 当時は誰もストリートファッションのアーカイブをしていなかったんです。流行通信とかのファッション雑誌はあって、ファッションに対する興味は高まってて。でも本当のファッションって人が洋服を着ている状態でしょ?と思って。そこには誰も注目してなかったので、自分のテーマはそこにしようと決めました。

(青木さんが最初に撮った写真

 

 

今となってはストリートスナップは馴染み深いコンテンツですが、青木さんの写真はすぐに青木さんの写真だと分かる、独自の視点があると感じています。その視点がどういうものなのか、ご自身ではどのように捉えていますか

 

青木: それはたまに言われるんですよね。記録として撮る感じなのでフォトグラファーが写真を撮る感じではなくて。むしろフォトグラファーとしての表現を排除しようと思っていて。なのでスタッフが撮影してた時もあったんですけど、自分の個性を入れないように指示してました。

彫刻の作品をフォトグラファーはどう撮る?みたいなところがコンセプトかな。例えばロダンの彫刻を撮るとするとフォトグラファーの個性とか入れないで、ロダンの作品をどう正確に撮るかであって。被写体の子たちとファッションが主役なので。そこが違うのかもしれないですね。

 

最近写真を撮ってくださいっていう連絡が沢山来るんだけど、フォトグラファーの表現を排除しようと思ってきたのに撮ってって言われるのは意外ですね。写真は誰でも取れるでしょ?って思って撮ってる感じがありますね。

 

 

何百人っていう人たちが通る中で、この人を撮りたいってなる為には自分の主観とか視点が絡んでくると思うのですが。

 

青木: 自分の思うお洒落な子って多分ファッション好きな子が見たら共通して見える部分があると思うので。個人的なセレクトで撮ってる感覚ではないんですよね。僕は好きなファッションの範囲が広い気がします。

 

 

青木さんが選ぶ被写体に共通して感じるのは紛れもなく自分をやっているっていう感じですよね。流行とかじゃなく。

 

青木: それは大きい。だから流行を無視する子たちが好きだった。

 

 

すごく見守る視点、姿勢なのかなという印象を受けます。

 

青木: 観察というか。雑誌を作っていてもファッションをこうしたいとかっていうのはないんですよ。こっちは好きこっちは嫌い、じゃなくてなるべくフラットにファッションのクリエイションのレベルが高いのを逃さないようにするっていうところ。

普通だったら残らない歴史ですもんね。きっと何百年先に見ても面白いじゃないですか。

 

青木:『FRUiTS』の最初の頃なんて結局僕しか撮ってなかったので。あれ撮ってなかったら残ってなくて。それ考えると面白いですよね。

100年後に見た時に面白いって言ってもらえるのがテーマですね。僕が今死んでしまったら世に出していない写真が全て消えちゃう可能性があるので。ちゃんと残るための作業を始めようかなと思ってます。

 

 

これからまた『FRUiTS』を再開していきたいということですが、そもそも停止していた理由が「原宿から撮りたいと思える人がいなくなった」ということでしたよね。コロナを経て近年また面白くなってきたと仰ってましたが、それはなぜだと思いますか

 

青木: おしゃれしないことに飽きた子たちがいっぱい出てきたのかなと。今日撮影した子たちもみんなおしゃれじゃない?昔だとそういう子たちが原宿に出てきて仲間の子たちがそういうファッションをしていて。それを見る一般の子たちがそれを真似して、短期間でどんどん広がっていく構造があった。でも今はそういったような場がないので。クラブシーンとかイベントがあるとおしゃれして集まったりなんかするけど、普通のストリートではそれが熟成していくみたいなのがないなと。そこを今悩んでますね。誰でもウェブ上で『FRUiTS』的なことをやろうと思えばできる。でもビジネスとしてやると違う気がするし。撮られる為に来るって言うのは方向性が違うんだよね。例えば今僕がやってたように、そこに存在するファッションの現象をアーカイブとして撮りためるという行為がしずらい環境なんだと思う。悩み中...。

 

 

クラブあたりをうろつくとか。。。

 

青木: クラブとかあんまり好きじゃないんだよね。笑

 

 

今ではダグ付けしてその人のアカウントに飛んで。。。っていうのができるんですけど、わからなさ、曖昧さとミステリアスさにも魅力がありますしね。。プログラマーとして元々デジタル世界から紙の雑誌をずっとやって、今はまたデジタルをやってて、青木さんが思う理想のメディアフォルムってなんなんですか

 

青木: 別に紙は好きじゃないんですよね、大変だし。笑 理想は本当にデジタル。画質の劣化がないし。でも問題は最終的な価値なんだよね。収集が目的なのですが、価値は欲しいんですよね。デジタル上だけだとそこが難しい。

 

 

紙が今ではラグジュアリーアイテムですもんね。年に2、4回出る雑誌を高額で買う時代で。

 

青木: 紙がラグジュアリーって認めてもらえるようになったら色々考えますけど。紙ってずっと安いものだったじゃないですか。Tシャツ6000円ってみんな安いっていうのに本が6000円ってなると、迷うじゃないですか。ヨーロッパの雑誌社は高い価格でチャレンジしてますが日本の出版社では誰もそこに行かない気がします。新しい形でやりたいんだけど。難しいですね。もうちょっと自分のやりたかった事の原点から考え直す必要があるかなって思いますね。僕はもう年なので、僕がいなくても回っていく仕組みみたいなのがあったらいいのかもしれない。『FRUiTS』のフィロソフィーみたいなのを僕だけが守るっていうよりも世界に広がってもいいし。ちゃんと記録して、ストリートファッションは価値があるものだという認識ができる仕組みを作っていけたらいいなと。

 

 

データベースみたいな感じですか

 

青木: 誰が撮るかによるんですけど、ルールみたいな。例えば『FRUiTS』始めたころも広告代理店が「このカバン持たせて」とか言ってくるんですよ。断るんですが。ドキュメンタリー、アーカイブとしてやっていくためのガイドラインが必要なのかなと。撮られる為に仮装してくる子は排除できるような、そんなところをルール付けしてオープンにするとか。wikipediaとかが参考になるのかな。

いろんな状態の東京、主に原宿を見てきた青木さんですが、今でこそ海外からの人が多くなってきたりネット上での影響っていうものが常に入ってくるこの時代なのにそれでも東京にくると「東京らしさ」みたいなものがあると感じていて。世代を超えるそのらしさってなんだと思いますか

 

青木: 原宿にずっといると「もうちょっと頑張ってくれないと『FRUiTS』復活できないよ!」とか思うんですけど、最近韓国に行ったり海外に行って帰ってくると、原宿の方がおしゃれだなって。みんなおしゃれしようっていう気持ちがあるんですよね。それってスゴイと思っていて。ロンドンとかはおしゃれのレベルが高いけど、おしゃれしようとしてない人がほとんど。最近の原宿はみんなおしゃれしようとしている感じがある。でも日本だと、彼氏も友達もできないことを恐れて抜き出るのを怖がる子たちが多いじゃないですか。そこを取っ払ってあげないといけないのかもしれない。おしゃれしたい精神は江戸時代からありますよね。その頃の着物の着方とかも今と全然違って、そのころとんがってた子たちもいて。新しい着物の着こなしとかあったし。その頃のアバンギャルドさは、今よりアバンギャルドだったのかもしれない。

芸能界とかなかったから、街の可愛い有名な子とかを真似するのがあったみたいですね。共通認識にはそういうところが今も残っているのかもしれない。社会的におしゃれしないことのリスクはあると思うんですよね。その意識の存在の仕方が日本は違うのかもしれない。

 

 

影響力が分散している今の時代、ストリートスナップこそすごくパーソナルスタイルにインパクトを与えるものなんじゃないかと。地方育ちで都会の道を歩き回って人を眺めることができなかった私からしたら、『FRUiTS』は東京の生きたファッションのリアルを唯一感じ取れるとんでもない財産でした。ファッションが突然身近に感じられて。最近また昔の『FRUiTS』のスキャンがどのプラットフォームでも大量にシェアされて、ブームが再熱し、雑誌が出版されていた時代にまだ生まれたてだったZ世代などが様々な手段で高額で購入している理由ってなんだと思いますか

 

青木: 特に海外からの人気が最近すごいですね。みんな知ってくれてて、また刺さってるみたいですね。むしろ聞きたいくらいです。20年前くらいから『FRUiTS』を見ててそれで育ったっていう外国の方もいて。僕の知らないとこでそれが起きている気がしますね。著作権的には問題あるようなことがいい方向に向くことってあるんだなと。勝手にtumblrとかに載せる子もそれで知ってもらえるから。あんまりうるさくすると文化って育たないですからね。街の落書きなんかもそうだけど、いいものも悪いものもあるはずで。そこの区別が必要だなと思いますね。結局はそこを誰が判断するかだと思います。

 

 

今後ストリートで期待している動きみたいなのってあったりしますかこういう感じで変わっていってくれたらいいなとか。

 

青木: ファッション全体がそうだと思うんですけど、ストリートでも1人の天才が変えることがあるので、天才待ち、という感じです。ネットしかなければ現れたすぐに消えちゃうので、『FRUiTS』の役目としてはそこを熟成させる効果はあったと思っていて。こないだ誰かと話してた時に「すごくおしゃれな子が出てきた時って最初ちょっとダサく見えるんだよね」って言ってて、まさにそうだなと。新しいファッションを始める時って違和感があるし、完成度がまだ低い段階だし、流行とは逆のことをやってたりするから。その瞬間を逃してはいけないと思ってます。誰かがチャレンジしてる段階を見逃さないというか。きゃりーぱみゅぱみゅちゃんも最初に『FRUiTS』に載った頃すごく変なバランスだったんですけどそれが良くて。「変なカッコ」って思われる段階で誰かが認めてあげるっていう仕組みがないといけないと思います。

いつもは原宿にいる青木さんですが、今日はAMBUSH本社のエリア、渋谷で撮影してみてどうでしたか

 

青木: いや、面白かった。渋谷が好きになりました。この辺にいたいなって思いました。おしゃれな人がいっぱいいるし街もそれなりに汚いし。笑 しかもちょっと裏の通りだから、納品とか駐車場だとかがあって。このエリアは静かに落ち着いちゃったなって思ってたんですけど一日過ごしてみると活気があっていいですね。

 

AMBUSHとの思い出はたくさんあって。YOONさんはデビューする前から『FRUiTS』に載ってたし。アクセサリーを作り初めて、面白い進化の仕方を追っていた感じなので思い出はありますね。アパレルは難しいし失敗する人が多い中ですごく面白い成功例だなと思います。最初から別格で、抜き出た才能が二人はあるんだなって思いますね。

 

 

収集癖があったりしますか

 

青木: うーん、どうだろう。でも中学生のころ、蝶々の昆虫採集をしてました。山に行って採って標本にする。今やっていることに近いです。おしゃれな子がやってくると、山にいて珍しい蝶々が飛んでくる感覚と一緒です。

 

 

楽しいですか人を撮ってて。

 

青木: 楽しい、とは違うかな。山に行って蝶々を採る時って大変じゃないですか。でも珍しい蝶々が採れた時の喜びというか。誰かがこのファッションを記録してないと消えちゃうんだよっていう責任感を感じてます。

 

 

 

Magazine Image courtesy of Aoki Shoichi

Interview: Yuki Kasai-Paré

Photos: Yuki Kasai-Paré